賢者の贈り物

 

 今日は10月25日です。

 朝からとってもいいお天気だけど、大きい瀬人のお誕生日なので、小さい瀬人は元気がないよ。
  身の丈14cmのちびっこにとって、靴を履いたら190cmくらいある大きい瀬人は鬼門です。今までだって逢って嫌な思いをしなかったことなんて一度もありません。それでも最近は以前のようにトイレに流されることもなくなったし、ちょっと仲良くなれたんじゃない?…というのにはちょっと理由があります。
  最近、なにかと大きい瀬人の周りを小さい城之内くんがウロウロしてあれこれ気を惹いているから、よその小さいのがあんまり目に入らなくなっているらしいんだ。
「邪魔だからどこかにいけ!俺の屋敷に住み着くんじゃない!!」
  なにかと瀬人を構おうとする小さい城之内くんに、口ではそう言ってる大きい瀬人ですが、いなくなったら多分、すごく怒るんじゃないかな…。

 まぁそんな大きな瀬人も人の子(一応)。
  今日はお誕生日なので、海馬邸ではささやかなお誕生会があるそうです。
  といっても、大きい城之内くんが呼ばれているだけで、大きい瀬人と、弟のモクバと、大きい城之内くんのおおむね3人で開くお食事会みたい。
  小さい瀬人もお呼ばれしてます。勿論、大きい瀬人は招待してません。モクバに「ちっさいのも連れてきて!」って言われてるだけです。あの大きいお屋敷に行ったら、団地の四畳半では絶対に食べれないようなご馳走が食べれるのですが、なんか浮かない気持ちだよ。
  ここのところ、学校の昼休みにご飯もうわのそらで杏子って呼ばれてる女に大きい城之内くんが何かを教えて貰ってたのを知ってる小さい子です。ふわふわの白い毛糸を二本の棒みたいなので器用に編んでいるのを学生服のポケットからずっと眺めていたのです。
かちゃかちゃと動く棒につるつると引き上げられていく白い毛糸が、ポケットから顔を出した小さい瀬人の目の前を通り過ぎていきます。くいっくいっとそれを引っ張ると、「こら」と大きい城之内くんがちっちゃい頭を撫でて注意するんだ。小さい子は、言われなくてもその白いのが自分のために作ってくれてるものじゃないって判ってる。だから邪魔しようとしてるのに、甘えてじゃれてると思われるのは不満です。
「いまだけちょっとこっちなー」
  そう言って、学生鞄の隙間にぽちょんと入れられた!革の変な臭いが充満するこの空間が大嫌いな小さい子はやー!やー!と怒っているけど聞き入れては貰えない。
  あんな毛糸なんてぐちゃぐちゃにしたいのに、そんなことさえままならないよ。

 そんなわけで誕生日当日になっても小さい子はご機嫌斜め。

 城之内くんは王サマみたいに偉そうにテーブルについてる大きい瀬人に、あれやこれやとワゴンで運ばれてきた料理を取り分けてあげてる。最近、宴会場のバイトにはいるから、メイドさんの代わりに自分でやってみたかったらしい。
  小さいこは、10人くらいはかるく座れそうな長テーブルの末席の椅子に置かれた籠の上に座ってる。お菓子やご馳走がのったお皿と一緒に、モクバが小さい城之内くんも乗っけて「ちょっとここで大人しくしててくれよな!」って言っていく。
冗談じゃない!って思うけど、椅子から床は小さい子の目線じゃ屋根の上みたいだし、何処にも逃げることが出来ない。かるい絶望。
今頃見えない机の向こう側で、あの白いのを大きい瀬人が貰ってるのかと思ったら怒りで死にそうです。
「ほら。これ、おまえにやるよ」
  籠の中でブスッとして丸くなってる小さい子に、そんな声が届きました。小さい城之内くんの声ですよ。
「………」
  小さい城之内くんにはまるっと一抱えもある白地に青い水玉の模様がついた箱には、ぴかぴかの青いサテンのリボンが掛かっています。
「だから機嫌直せよ、なぁ」
  小さい瀬人はその箱と送り主の顔を不思議そうにかわるがわる眺めました。
「…おまえの好きなのはあっちのデカイのじゃないのか」
  小さい城之内くんだけじゃなく、大好きな大きい城之内くんも、美味しいお菓子をくれるモクバという名前の子供も、あの忌々しい大きいのが好きなことを、小さい瀬人は知っていました。
「なんで?」
「………」
  本当に不思議そうな顔で小さい城之内くんがそう言ったので、返す言葉を探し出すことが出来ません。
「ほら、開けてみろよ」
  そう言われて恐る恐る青いリボンを引っ張るよ。
  シュルって綺麗な音がしてリボンが床の上に垂れたので、それに足を取られないように箱を開けると、中には小さい白いふわふわが入ってました。
「かして」
  小さい瀬人が小さい手で白い毛糸をモニュモニュしていると、小さい城之内くんがその手首を掴んで、握っていた毛糸で編んだミトンを両手にはかせてくれました。
「オレみたいに小さくないと、こんなのは作れないんだぜ?」
  得意げに笑う顔が、大きい城之内くんと一緒で小さい瀬人はビックリしました。
「…これは俺のか?」
「そうだよ」
「………ふん。」
  ちょっと機嫌をよくした小さい瀬人は、小さい城之内くんと一緒に椅子の上のご馳走を平らげましたとさ。

* * *

「あれ?寝ちゃってるな」
  寝てないくせにシャンパンを一人で三本開けた大きい瀬人がウトウトし出したので、楽しいお食事もお開きです。とりあえず今日の主役は、大きい城之内くんがあの天蓋付の大きなベッドにブツブツ言ってるのをなだめすかしながら寝かしつけに行きました。寝息を立てる音を聞いてから、大きい城之内くんが残されたモクバのところに戻ってくると、大きな食堂の末席で小さいな子達もおなかをいっぱいにして寝ついていました。
「ホントだ。どっちもよく寝てるぜぃ。」
  横からそれを覗き込んだモクバも苦笑しながら丸くなって眠る小さいのをちょんとつつきました。
「…せっかくこれやろうと思ったのになぁ…」
  そう言いながら城之内くんがパーカーのポケットから白い毛糸で出来たものを取り出します。
「なんだよ、それ」
「ああ。これ?もうすぐいると思って作ったんだ」
  瀬人の手袋作った毛糸が余ったから。
  照れるみたいにそういうのを見て、きっとそれは余ったから作ったんじゃなくて元からそれを見越して用意してあった毛糸で作ったんだろうな、とモクバは思いました。
「…どうすんの?」
  椅子の上から小さい瀬人をつまみ上げた大きい城之内くんは、握っていた白い毛糸の靴下のなかに小さい子を入れました。もう一人、忘れないように小さい城之内くんも並べて寝かせます。
「もう寒いから、ちょうどいい寝床だろ?クリスマスにはなんかプレゼント入れてやろうと思ってさ」
  白い靴下には青い★の模様が編み込まれています。
「ふぅん」
  モクバが手を伸ばすとその掌に城之内はそっと2匹が入った靴下を載せました。
「じゃあ今日はこれ、オレの枕元に置いて寝るぜぃ!」
  だから早く兄サマのところに戻れよな、と唇を尖らせて大きな城之内に付け足して言います。
「サンキューな」
  そういいながら、照れくさそうに笑った城之内は足早に食堂を後にしました。

 モクバは一人、掌にのった温かいものを両手で大事に包みながら独り言を口にします。
「これがオレから兄サマへの誕生日プレゼント……なぁんてな」

 ………………そう言って苦笑いする声は、ちょっと大人びていたとか、いなかったとか。

 

 

END

 

2005.10.25


  兄サマ、今年もお誕生日おめでとう!
illustration by NYAN(YUKIKO.TANAKA)
【 DEAD END STAR / 田中 様 】
text by:MAERI.KAWATOH
サロン・ド・ミノ

タナカさんとまえりのコラボ?企画でした。



2005/10/25