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SWEETS LOVER
 
  「さぁ罰ゲームだぜ!海馬ぁ」
 
* * *
 
 机の上にはバックギャモンの駒が転がっていた。
 土曜の午後の海馬邸。麗しの三時のティータイム。24コの細長い二等辺三角形が描かれたボードの上には、灰色と深緑のチェッカーが散らばっている。
 
 バック・ギャモン【Backgammon】。
 
 古くから「西洋双六」や「盤双六」と呼ばれてるボードゲーム。その起源は古代メソポタミヤとも古代エジプトともいわれ、古代エジプトにおいては「セネト」という名で親しまれたという。
 現在発掘されるピラミッドの壁画や服飾品にも見られるほどに古い歴史を持つレースゲーム。ダイスを振って出た目だけ駒を進めていき、先にすべての駒をゴールさせたら勝ちというルールになっている。


 珍しく遊びに来たこの屋敷で、たまたま目に入ったこのゲームでの勝負を持ちかけたのはただの気まぐれで。
「もちろん、ルールを知った上でオレに挑むと言うんだろうな?」
 それは海馬が自分でも自信があるゲームのひとつなのだろう、赤子の手を捻るように潰してやろうという悪意に満ちた笑顔に、こっちの悪戯心が騒ぐのが自分でわかった。
 まぁ実際、海馬に挑んでみたものの全くルールがわからなかったオレは、相棒にとうとうと説明されながら手にしたダイスカップにダイスを放り込む。そのまま掌で塞いでダイスカップをカチャカチャと振り、出た目の数だけチェッカーと呼ばれるオセロの駒みたいな丸いアクリル板を動かした。

 まぁ相棒に言わせれば、その後のオレ達のゲームはこんな展開だったらしい。

 7ポイントマッチで、最初は海馬に4−1とリードされたところを一気に6−5まで持ち込んでクロフォード。上手くそのまま畳み込めるかと思ったが、そこは海馬に乗り切られてのラストゲーム。最後の最後にぞろ目を連発されて2ロールvs3ロール。海馬が鬼の首を取ったような顔で出してきた44の目に対して、こっちは更にその上を行く66を出してゲームエンド。クォータークオリファイでそのまま勝ち逃げってヤツだ(笑)。

(やったね!もうひとりのボク!!)
 
 頭の中でそう響く陽気な声とは対照的に、苦虫を噛み潰したような顔をする目の前の男に笑いがこみ上げる。スマートなグレイのスーツに、張り付いたギリギリのプライド。
「・・・クッ!」
 その悔しげな声が聴けたことに満足を憶えながら、オレは先刻海馬邸のメイドが運んできたワゴンに載ったアフタヌーン・ティーセットを指さした。
「さぁ罰ゲームだぜ!海馬ぁ」
 ダンッ!とバックギャモンのボードが置いた円卓に海馬が拳を叩きつける。灰色のチェッカーが驚いたように跳ね上がった。
「ばかばかしい・・・!」
 ゲームの前に取り付けたのは、ちょっとした悪戯だ。
 
「約束通り、お前の左手でそれを食べさせて貰おうか(笑)?」  
 
* * *
 
 利き手は右の海馬が、3段のプレート一番上から苺のショートケーキをケーキナイフで取り上げる。震える手が、取り分け用に用意されたボーンチャイナの小皿にケーキを運ぶ。
 怒りのためか薄い唇も震えていた。
 思わずこみ上げる笑いを隠さずにいると、焦げ茶の髪に隠れかけた青い目がこっちをギッと睨みつけてくる。
(海馬くん、気を悪くしてるみたいだよー。笑いすぎ!)
 だって、こんな面白い見せ物はそうないぜ?相棒(笑)。
 そう頭の中で答えながら上目遣いに海馬を見やると、フォークでケーキを一口大に切りとっていた。
「・・・・・・口を、開けろ」
 鬼の形相で、ケーキが載ったフォークをオレの目の前に突き出してくる。
 そういう風にしてるとけっこう可愛いな、と思いながら面白いことを思いついた。
「先におまえが自分で毒味しろよ」
 そう言って、すっと身を引いた。
「そんなことをする約束はしていない」
 長い前髪の下で、更に深まるであろう眉間の皺を想像して楽しくなる。
「そんなことをしない約束もしてないぜ?」
 そう言われて、クッと小さい声で吐き捨てると、差し出していたフォークを自分の唇に寄せた。薄く開いた唇は淡い色をしていて病的なまでに白い肌にマッチしていた。(海馬くんの顔って、まるで人形みたいに綺麗だよね!)と相棒がウキウキ言うとおり、整った顔立ちは観賞用におあつらえ向きなのだろうと思う。
 (まぁだけど、オレはこの顔が怒りに歪んでるのを見てる方が面白いぜ?)と答えたら(本当に悪趣味だよねぇ・・・キミも海馬君も!)と言われて閉口した。そんな風に相棒に思われていたのはちょっとショックだ。
 嫌々ショートケーキを口にした海馬の唇の端には、ほんのりと生クリームがついたまま。それを見ながらオレはあーん、と口を開けた。
 先刻と同じ、震える左手がオレの口元にケーキをひとかけ運んでくる。
 まるで親鳥から餌を貰うのを待つ雛のように、オレはウットリとした顔でフォークに噛みついた・・・それが相棒の一番好きなオレの表情らしいので。
 甘酸っぱい苺を挟んだ生クリームとスポンジ片をゆっくりと咀嚼して飲み込む。甘いものは相棒ほど好きじゃないから、『随分甘いな』くらいしか感想がもてない。

「海馬」

 オレはテーブルから席をたつと、立ったままケーキ皿片手の海馬に近づいた。
「・・・ッ。近寄ってくるな!」
 全身の毛を逆立てる子猫みたいに緊張感を走らせるその両手の間にすっと身体をいれる。
 そして海馬の唇の下についたままの、生クリームをすっと親指でぬぐい取った      冷たい肌は、触れた瞬間に火がついたようにように赤くなる。
 
「間接キスって言うらしいぞ?(笑)」
 ぬぐった指先を海馬によく見えるように、ゆっくりと長く舌を出して舐め取った。
(もう一人のボク!!)
 
      フザケるなぁ・・・・・・ッ!!!!!!!」
 
 罵声とともに飛んでくるケーキが載ったままのプレートを、オレはヒラリと交わして逃げ出した。(ちょっとぉ!ずるいよー!!)と頭の中で叫ぶ相棒は、むしろおまえにそう言わせる海馬が憎いぜともいえなかったが(笑)。
「美味かった。またな!」
 カシャーンッ!と壁にぶつかって割れた陶器片にかわしてそのまま部屋を飛び出した。
 
* * *
 
 ・・・・・・あとには不機嫌な彼と二人分のスィーツが載ったデザートワゴンが残されましたとさ(笑)。
 
 

the end

 

 

>> サイトのキリ番だった11111を踏んだsobayaさんからのリクエストで、『かわいい子には甘いお菓子を、ヨワい子には心に甘いお菓子を下さい・・・』でした!ちゃんと甘いお菓子だよ(笑)!!文中のバックギャモンに関する知識は一夜漬けなので、ルールをよくご存じの方は深くつっこまないでください・・・。一回使ってみたかったゲームです。原作で出てきそうなのになぁっていっつも思ってたの。さて書いてはみたものの、闇海スキーのそばたんが身内のSSで満足できるのか謎ですが・・・まぁこんなのしか書けないので諦めてくださいよ(泳ぐ目)。いつもいつもありがとう!仕事ガンバレ!(とエールを送ってみたりな)