「…怪我が治るまでの間、自分の家だと思ってゆっくりしてください。ボクはあまり一緒になる機会もないと思いますが、どうぞ怪我の方をお大事に。」
上っ面な言葉を上っ面に話す。
どんな顔で話したとしても、ソファーに腰掛けた金髪の包帯男に俺の姿は見えないのだが、勘だけはいい男だ。油断は見せないに越したことはない。
「あっ、ありがとーございます!」
まるで教師に指された生徒みたいに立ち上がって上擦った声の城之内がそう答えた。
「理由があってうちの社名を出すことも、僕たちが名乗ることもありませんが、そのお怪我と共に今回のことは全てお忘れいただければこちらとしてもありがたいです。滞在中、不自由がないように誰かメイドを一人お付けした方がいいですね」
そう言ってアパー・テンを誰か呼ぼうとすると、それを遮るように城之内がブンブンと両手を振った。
「いや!いいです!オレ一人でなんでも出来るから…っ。ホント、置いてくれるだけでマジ助かってるんで…」
顔を赤くしてくすぐったそうに笑う馬鹿面が気に障った。しかしモクバの手前、それは顔に出さないでおく。
「わかりました。何かお役に立てることがあればいつでもボクか弟に遠慮なくおっしゃってください。では…」
愚民の相手を早々に切り上げて、自室で読みかけの本に戻りたかった。なのに立ち上がった瞬間に、アイツは俺に向かってこう言ったんだ。
「スゲー綺麗な声!」
もう俺が目の前から消えたと思ってそう言ったのだろう。思わずそのまま硬直して突っ立ってしまった。
「あ、オレ、部屋に案内するよ。客間はアッチだから…」
横に座っていたモクバが俺の動揺を組み取ってか、城之内の腕を引っ張った。
「おっ。サンキュー!」
病院でのやりとりのせいか、すっかり打ち解けた様子のモクバがさらに俺の気持ちを逆なでする。
二人が応接室を出て行ってから、ドサッと、重い身体をもう一度ソファーの上におろした。