―――――――ずいぶんといい夢を見ていたような気がした。
意識が水面下に浮かび上がるようになる頃、頭の下になにか枕のようなものがあるのを感じてハッと目を覚ます。
「っ…!」
枕だと思ったのは、城之内の膝だった。
向かいに座ってたはずの男は、いつの間にか俺の横たわっていた長椅子に移動してきている。
「おはよ」
俺が目を醒ましたのに気がついた様子の城之内は、なにを思ったのか、きつく巻かれていた包帯をバラリ、と解く。
例えようもない恐怖が、ザッと俺に降り注ぐ。
包帯の下の眼帯がポトリと落ちてくると片眼がほどけた包帯の合間から、あの茶色い瞳が現れた。
…どこを怪我してるっていうんだ?
キツい目で睨むように俺を見据えるその目のどこが。
そう思った瞬間、その茶色い瞳から、ボロボロと涙が零れた。
パタパタと、零れた涙が仰向けになっていた俺の頬を濡らした。
「だめだ、やっぱ開けてらんねー」
城之内はそういってギュッと目を閉じた。
「…この馬鹿がっ!」
俺は腹立たしさを感じながら、起きあがって目元を押さえる凡骨の肩を掴んだ。はずれた包帯の端をつかんで、イライラした動作でそれを頭に元通り巻き付ける。
「ちぇっ。一瞬見えたのに、わかんなかった!」
「何がだ?」
「…おまえの顔」
そう言う瞬間の、潜めるように低くなる声。
さわさわと耳元に残るのがくすぐったくて、思わず左右に首を振った。その瞬間、城之内の身体を押しのけようとしていた両手の手首を掴まれる。
「物好きだな」
包帯を巻いた顔が近づいてくる。目が見えないから、唇の形ばかりが気になった。
「…好きだ」
くぐもるような声がする。ゆらりと揺れるのはこの男の匂い。メンソールみたいな湿布剤の鼻先をくすぐりひやりとしたあの匂いが。
動けなかった。
こいつは本当に見えてないんだろうか?
そう思いながら、城之内が耳元で囁いた告白ばかりが、うるさいくらいに俺の心臓の鼓動を鳴らしながら、ぐるぐると頭を駆け回っていた。